2017年10月19日木曜日

冷たいから嫌だな

Sさん、支援学校の中学部三年生になりました。

学校の給食の時間、

いつも担当している食事終了後の台拭きの仕事、

先日、台を片付けるだけで拭こうとしなかったそうです。

「台も拭いてよ。なんで拭かないの?」

と先生が聞くと

「Sちゃん、冷たいから、嫌だな。」

そう答えたそうです。

どうしたらいいか、先生とあれこれ話をしているうち、

「お湯で絞ろう。」

と自分で言えたそうです。

・・・・・

まだまだしっかり理由が言えるものばかりではありませんが、

長い年月をかけて、

ようやくこのようなやりとりができるようになりました。

このケースの場合、学校で台拭きをしない理由など、

先生にわかるわけがありません。

(母なら想像がつきそうですが)


・・・・・

なので、理由が言えないと

「台も拭いてよ。なんで拭かないの?」

に対し

「しないの!」

としか答えられず、

「いや、しなさい。仕事でしょ!」

と言われ、

「ギャー!!!」

と怒ってしまい、無理矢理させられる。

こんな風になることが予想されます。


なんだかとっても不本意な結果ですよね。

・・・・・

彼らにも何かしら理由があるわけなのですが、

それが上手に言えないことで、無理強いさせられていることって

たくさんあると思います。

例えばこのケースが、普通の学校で起こっていたら、

「そんなもん、水は冷たいんやから、しゃーないやろ。ちゃんとやれ!」

になると思います。(私も実際子供たちに言ってますから)

そこはまあ、”きちんとお仕事をする”ことを優先するために

配慮をしてもらう環境下で生きていくレベルの息子ですから、

きちんと理由が答えられたら立派と言えるのではないでしょうか。

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何回も投稿しているかとおもいますが、

こうやって理由が言えるようになるには、

何か問題が起こったとき、

理由が推測しやすい人物(たいていは母親)が、

「水が冷たいから、嫌やったんやね。」

「全部食べたかったんやね。」

「こっちがいいと思ったんやね。」

などと代弁ししてやり、

「じゃあ、その代わりにこうしようか。」

などと代替案を示すというようなことを

しっかりと代わりに見本を見せてあげる、

それによって状況がどう変わったのか本人に体感させる、

ということを毎日のように繰り返すしかないのだなと

思います。

・・・・・

寒がりの息子、学校での台拭きもこれでクリアしたかな?

タカマミー




2017年8月3日木曜日

困っています、と言えること

支援学校中学部3年生の私の息子の話です。

ただいま夏休み。

毎日のように通わせていただける放課後等ディサービスがあるお陰で、

概ね退屈せずに過ごすことができ有難いです。


とはいえ、普段より家にいる時間も多いので、

同じく私が夏休み中であることも大変助かっています。


いつもより息子と一緒にいる時間が長いと、

以前は心身ともに疲れて疲れてどうしようもなかったのですが、

今は「一日中ではない」という気楽さもあってか、

メリットもあるなと感じています。


それは、普段じっくり取り組むことが難しいことに

しっかり向き合えることです。

・・・・・

今朝は、彼から嬉しい言葉が飛び出しました。

「お母さん、紙つまったな。」

そう言いにきてくれました。


トイレに入ると、トイレットペーパーを使いすぎることがある彼。

悪気はないのです。

「このトイレットペーパーはもうちょっとで終わる」と思う判断が

我々とは違っているので、ついつい多く使いすぎるときがあるのです。

そして、多く使いすぎると流れないので、

なんとか流そうとして、何度も流してしまいます。

そうすると水が溢れます。

大変なことになります。

我が家も何度も大変な目にあっていますが、

通わせていただいてる場所でも何度もそんな事件を起こしています。


これまでにも、様々なことを考えて取り組みました。

私はアイディアを出すのが得意。

緻密に実行するのも得意です。

しかし、一旦改善しても、根本的に判断基準が違うので、

また同じことの繰り返しとなります。


最近では、

「紙がつまったら、周りの人に伝える。」

ことで、少なくとも水を溢れさせることなく、適切に処置ができると考えるようになりました。


紙を詰まらせることと、水を溢れさせることは、

別の課題として考えます。

・・・・・

家で一緒にいる時間が長いので、

そして私にも余裕があるので、

彼のトイレが長いなと思ったら

トイレの前に行き、手助けを適切に入れることができます。

そんな手助けを毎回繰り返していたら

「紙が詰まったら、お母さんに言って、また手袋をはめて紙を取ったらいいんだ!」

その方がなんとなく良さそうだぞ、と感じてくれつつあったのでしょう。

そして今朝

「お母さん、紙つまったな。」

何度も水を流す前に、流れないなと思ったときに

自分で適切な行動(お母さんに言いに行くこと)ができました。


・・・・・

このようなことを教えようとするとき、

支援者はいつも同じような対応をする必要があります。

まずは叱らない。

冷静に、手袋とビニール袋をもって、

「さあ、紙を取ろう」

しっかり取り除けたら

「水流れたね、良かった」

落ち着いて、繰り返し一緒に行動すると、

彼も、それはいい方法だと感じてくれるようになります。


支援者との関係性、

その子の理解力、

その場の状況、

によってうまくいく場合、いかない場合、とあるでしょうが、

彼らが、その方がベターだ、うまくいって気持ちいい、

そんな風に感じ、繰り返しやりたくなってしまうように

持っていくことがコツだと感じます。

メリットがあれば、必ずそう行動したくなるものです。

そしてそれが自然にできるようになるまで練習して、

定着すればそれでいいのです。

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タカマミー







2017年5月23日火曜日

社会的評価という動機付け

息子は中学部三年生になり、
作業学習の内容が変わりました。
昨年は、やや個人作業が中心だったのに対し、
今年は集団作業もたくさんあるグループに所属しています。

4月から、担任の先生よりいただく情報の中で、
特徴的なものを抜粋してみます。

「今日は2人用ノコギリで木を切る
→ドライバー→やすりがけ
の作業でした。
特にノコギリがもっとやりたいようでした。
最後までしっかり取り組めました。」

「今日は、芝生のメンテを行いました。
肥料や砂をグラウンドにまく作業。
活動にはまり、集中し、
先生方にたいへん褒められました。」

「今日は木材のやすりがけ、
カレンダーの台紙貼り等をしました。
途中で「終わるよ」と少し集中が切れてしまいました。
再度工程を確認し見通しを持たせ、最後まで取り組みました。」

「今日は学校外のさくらの掃き掃除。
時々「先生がやるかな」と(文句を)言いながらも、
最後まで頑張りました。」

「今日は校内の草抜きと、近所の参道の草抜きでした。
活動が単調であるためか集中が切れやすかったです。
急きょブロワーを投入し、
機械を使って落ち葉を掃除する活動に切り替えると、
ノリノリでやっていました。」

「見通しが持てると、誰よりも正確に、そして丁寧に
仕事をすることができます。」

「指導したとおりの順序で作業を行うのでなく、
自己流にしてしまうことがあります。」

・・・・・

しっかりと頑張る力はついているということは、
私も感じますし、認めています。

しかし、彼は何もかも受け身なタイプではなく、
好き嫌いもはっきりとしているので、
家でも平気でお手伝いを断ってきます。

お手伝いを頑張ること。
丁寧にやること。
正しくやること。
試行錯誤をすること。
報告すること。

そのために、好きな活動を見つけてやったり、
環境を整えてやったり、
かなり合わせてきた、といえます。
そして、その環境の中で頑張る力はついてきた、ということです。

でも、ここに来て、
その次の段階にいかないといけないんじゃないかな?と思うようになりました。

・・・・・

ちょうど児童精神科の診察があったので、
これらのエピソードから、打ち手を考えていきたいという
話をしました。

そこで出てきた言葉が「社会的評価という動機付け」です。

彼は興味関心がはっきりしているので、
興味があることに関しては、人から褒められるくらい頑張ることができます。
しかし、興味が薄いことに関しては、
本人の許容範囲であればしぶしぶやることができますが、
見通しが持てなくなってくると、かなりトーンダウンしてグズグズ言い出します。

もう少し幼い時期は、ここまでできることが目標でもありましたから、
目標は達成できているといえるでしょう。
しかしもう、次の段階へ環境を変化させないといけない時期にきています。

そこで動機づけを何で作っていくのか、という話になりました。

一つは、信頼している人に褒められたり認められたりすること。

そしてもう一つは、チームの中での自分の役割だと認識できること。

例えば、楽しい作業のブロワー。
きっとみんながやりたがる作業なのでしょう。
でも、草抜きをしている人もいれば、ブロワーをしている人もいる。
そう認識できること。

例えば、掃き掃除の担当、床の拭き掃除の担当、机拭き掃除の担当、
いろんな担当の人がいて、今日の自分の役割は掃き掃除だ、
と認識できること。
机拭きがやりたかったとしても、いつもやれるわけじゃない。

そんな風に、自分がそのチームの一員だから何かの役割を担うんだ、
という意識。
そして、お互いに楽しいときもあれば、あんまり楽しくない時もあるけど、
持ちつ持たれつだという意識。

そういう観点で、彼の育ちを見ていかれるといいのでは、と助言をいただきました。

大変勉強になりました。

早速家の中でもやれそうな設定を考えています。
そして、ちょっと今日もやってみましたよ。
思いついたら即行動!

忘れないためにも、このことを文章で残しておきたいと思いました。

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タカマミー



2017年4月28日金曜日

プロンプトフェーディング

小学校一年生の支援に入っています。
一年生の反応がわかりやすかったのでご紹介しようと思います。

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ある日、書写の時間にひらがなの「え」の書き方を勉強しました。
少しやんちゃで、すぐには先生に心開かへんで、というタイプの子がいたのですが、
この文字の形が捉えられずにいました。

そりゃね、無理な子には無理だと思うんですよ。

ドリルを見てみると、
「え」を学ぶために用意されているマスは9個あります。

そのうち、なぞり書きが4個。
始点のみ書いてあるのが2個。
フリーが2個。
もう一つは「えさ」などの実践として1個(つまりフリー)。

なぞり書きが「100%手助け」だとしたら、
始点のみは「5%手助け」で、
フリーは「手助けなし」です。

80%手助けとか、50%手助けとか、
そういう段階を踏まないといけない子って
たくさんいます。

しかし、学校でのできない子への指導って
基本的に一律「なぞり書き」なんです。
(先生が赤ペンで行う、「お直し」と称されるものです)

ね、段階が飛び過ぎてて、できない子にはできないでしょ?

・・・・・

そのやんちゃな子が困っていたので、
始点・フリーの4個のマスを使って、
80%手助け

60%手助け

40%手助け

5%手助け

のような感じで手助けを減らしていきました。

言葉はそんなに必要ありません。
「ヒント出していくから、やってみて」
程度です。

さて、最後の「えさ」を書くところに行くと、

あれ、先生ヒントは?
という顔で私を見ています。

「大丈夫やろ、もう書けると思うで」

え、できるかなぁという表情をしながらですが、
しっかりと形を捉え、自分で書くことができました。

・・・・・

私が発達障害児の療育にと最初に勉強したのは、
ABA(応用行動分析学)という手法です。

何か、できないことを教えようとするとき、
『プロンプト(手助け)』を多用します。

そのプロンプトの仕方も非常に重要なのですが、
そのプロンプトをだんだん減らしていき、
「自分でできた」というところに落とし込む作業、
つまり、プロンプトを減らしていく過程が最も重要だと思っています。

これを『プロンプトフェーディング』というのですが、
多くの指導者は、このプロンプトフェーディングが
雑だったり、すっ飛ばしてしまったりして、
逆に子供(大人の場合もあり)に失敗をさせてしまいます。

仮に失敗をさせてしまっても、
もう一度プロンプトの段階を元に戻して、
成功に導けばいいのですが、
なかなかそこで冷静になれる人は少なく、
指導者も子供も自信を失い終了、となってしまうことも多いです。

失敗から学ぶのは、もう少し精神的にもタフになり、
学ぶ要素も高度になってからで十分だと思います。

だってやっぱり、成功したら誰だって嬉しいですし、
やる気になりますもん。

・・・・・

そしてその後の話。

「え」でつまづいていたやんちゃな子、
「え」が書けた瞬間から、私のこと好きになったみたいです。

本を持ってきてはしゃべりかけてきてくれるのですが、
その距離がやたらと近い!

私のことをマジシャンとでも思ったのでしょうか!?

子供がまっすぐな目で心を寄せてくれる瞬間というのは、
何にも代えがたい幸せな時間です。

・・・・・

タカマミー

2017年4月23日日曜日

急ぐってどういうこと?

発達障害があっても、
ある程度の社会性があれば、
競争心、
つまり、勝って嬉しい、負けて悔しい
ということはわかるようになります。

これがわかるようになると、
勝つことにこだわりだし、
勝たないとひどく癇癪を起したり
と問題行動化する子が多いので、
それはそれで周りは苦労してしまうのですが。


・・・・・

さて、うちのSさんは、
社会性の障害が重いのと認知の問題とで、
勝つとか負けるとか、
そういうことに無頓着です。

おそらくここまできたら、
彼に勝負がわかるようになる日が来るのを待っても、
来ない可能性が大きいでしょう。

何とかして能力を伸ばしてやりたいと思っても、
元々備わった能力以上のことを期待するのは無謀なので、
「仕方ない」とすることも親として大切なスキルです。

※理想の現実とのハザマ、
ここが虐待につながるケースも多いのです。

・・・・・

Sさんの状態を受け入れつつも、
それに類似した概念として今のSさんに必要なこと。
それは「急ぐ」ということだと考えていました。

時間に間に合わせるために「急がなくちゃ」という意識を育てること。
これは、彼にとって必要なスキルだと思うのです。
間に合ったら、いわゆる「勝ち」ということです。
間に合わなかったら「負け」ということですよね。

ある程度の時間が読めることと、タイマーが有効なSさん。

ここで設定を考えました。
・・・・・

夜のルーティンです。

1.お風呂からパンツとシャツ姿で出てくる。(手にはパジャマ)

2.夜の薬を飲む。

3.パジャマを着る。

4.ソファで寝転んで、仕上げ磨きの準備完了。

たったこれだけのことなんですが、
放っておいたら、30分もかかったり、
途中でパソコンで遊び始めたり、
穏やかでいたい母も、イライラし始めます。

いろんな手を使いましたが、
そもそも手順へのこだわりや
やり方へのこだわりが随所に含まれるため、
休まず手順をこなしたとしても、
めちゃくちゃ遅いのです。

・・・・・

そこで、この4つのルーティンが7分以内に完成したら、
仕上げ磨きの付属としてついてきた「耳掃除」がしてもらえることにしました。

7分のタイマーがなっても完成していなかったら、耳掃除はありません。

・・・・・

この手のことを、口で説明しても、イマイチぴんとこない認知のSさん。

実際に、2回ほど失敗してもらいました。

そしてその後、ものすごく手助けして、成功してもらいました。

その後、1回も失敗すれば、このルールは理解しました。

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そして、未だにこだわりにひきずられて「あーあ」となる日もあるのですが、

なんとか間に合いそうなときは、

パジャマを着ている時間がなくて、
パジャマを抱えたまま、ソファにダイブ!したり
するようになったんです。

タイマーのカウントダウンを見ながら、
ものすごく素早い動作をしたり、
ちょっとズルをしてでも間に合わせようとしたり、
そんなことをするようになりました。

笑顔で
「耳こちょこちょ、やな♪」
と嬉しそうです。

これはすごいことなんです!

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自然にこのような概念がわかる子には、
わざわざ必要ない設定かと思いますが、

Sさんのように、工夫次第で体感し、理解する概念もあります。

私とSさんのこれまでの生活では、
幾度となくこんな設定が登場しました。

設定が上手でも、本人の認知のレベルと合わなかったりして、
2年後再チャレンジ、というようなこともありました。

参考になれば幸いです。

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タカマミー