2017年4月28日金曜日

プロンプトフェーディング

小学校一年生の支援に入っています。
一年生の反応がわかりやすかったのでご紹介しようと思います。

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ある日、書写の時間にひらがなの「え」の書き方を勉強しました。
少しやんちゃで、すぐには先生に心開かへんで、というタイプの子がいたのですが、
この文字の形が捉えられずにいました。

そりゃね、無理な子には無理だと思うんですよ。

ドリルを見てみると、
「え」を学ぶために用意されているマスは9個あります。

そのうち、なぞり書きが4個。
始点のみ書いてあるのが2個。
フリーが2個。
もう一つは「えさ」などの実践として1個(つまりフリー)。

なぞり書きが「100%手助け」だとしたら、
始点のみは「5%手助け」で、
フリーは「手助けなし」です。

80%手助けとか、50%手助けとか、
そういう段階を踏まないといけない子って
たくさんいます。

しかし、学校でのできない子への指導って
基本的に一律「なぞり書き」なんです。
(先生が赤ペンで行う、「お直し」と称されるものです)

ね、段階が飛び過ぎてて、できない子にはできないでしょ?

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そのやんちゃな子が困っていたので、
始点・フリーの4個のマスを使って、
80%手助け

60%手助け

40%手助け

5%手助け

のような感じで手助けを減らしていきました。

言葉はそんなに必要ありません。
「ヒント出していくから、やってみて」
程度です。

さて、最後の「えさ」を書くところに行くと、

あれ、先生ヒントは?
という顔で私を見ています。

「大丈夫やろ、もう書けると思うで」

え、できるかなぁという表情をしながらですが、
しっかりと形を捉え、自分で書くことができました。

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私が発達障害児の療育にと最初に勉強したのは、
ABA(応用行動分析学)という手法です。

何か、できないことを教えようとするとき、
『プロンプト(手助け)』を多用します。

そのプロンプトの仕方も非常に重要なのですが、
そのプロンプトをだんだん減らしていき、
「自分でできた」というところに落とし込む作業、
つまり、プロンプトを減らしていく過程が最も重要だと思っています。

これを『プロンプトフェーディング』というのですが、
多くの指導者は、このプロンプトフェーディングが
雑だったり、すっ飛ばしてしまったりして、
逆に子供(大人の場合もあり)に失敗をさせてしまいます。

仮に失敗をさせてしまっても、
もう一度プロンプトの段階を元に戻して、
成功に導けばいいのですが、
なかなかそこで冷静になれる人は少なく、
指導者も子供も自信を失い終了、となってしまうことも多いです。

失敗から学ぶのは、もう少し精神的にもタフになり、
学ぶ要素も高度になってからで十分だと思います。

だってやっぱり、成功したら誰だって嬉しいですし、
やる気になりますもん。

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そしてその後の話。

「え」でつまづいていたやんちゃな子、
「え」が書けた瞬間から、私のこと好きになったみたいです。

本を持ってきてはしゃべりかけてきてくれるのですが、
その距離がやたらと近い!

私のことをマジシャンとでも思ったのでしょうか!?

子供がまっすぐな目で心を寄せてくれる瞬間というのは、
何にも代えがたい幸せな時間です。

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タカマミー

2017年4月23日日曜日

急ぐってどういうこと?

発達障害があっても、
ある程度の社会性があれば、
競争心、
つまり、勝って嬉しい、負けて悔しい
ということはわかるようになります。

これがわかるようになると、
勝つことにこだわりだし、
勝たないとひどく癇癪を起したり
と問題行動化する子が多いので、
それはそれで周りは苦労してしまうのですが。


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さて、うちのSさんは、
社会性の障害が重いのと認知の問題とで、
勝つとか負けるとか、
そういうことに無頓着です。

おそらくここまできたら、
彼に勝負がわかるようになる日が来るのを待っても、
来ない可能性が大きいでしょう。

何とかして能力を伸ばしてやりたいと思っても、
元々備わった能力以上のことを期待するのは無謀なので、
「仕方ない」とすることも親として大切なスキルです。

※理想の現実とのハザマ、
ここが虐待につながるケースも多いのです。

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Sさんの状態を受け入れつつも、
それに類似した概念として今のSさんに必要なこと。
それは「急ぐ」ということだと考えていました。

時間に間に合わせるために「急がなくちゃ」という意識を育てること。
これは、彼にとって必要なスキルだと思うのです。
間に合ったら、いわゆる「勝ち」ということです。
間に合わなかったら「負け」ということですよね。

ある程度の時間が読めることと、タイマーが有効なSさん。

ここで設定を考えました。
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夜のルーティンです。

1.お風呂からパンツとシャツ姿で出てくる。(手にはパジャマ)

2.夜の薬を飲む。

3.パジャマを着る。

4.ソファで寝転んで、仕上げ磨きの準備完了。

たったこれだけのことなんですが、
放っておいたら、30分もかかったり、
途中でパソコンで遊び始めたり、
穏やかでいたい母も、イライラし始めます。

いろんな手を使いましたが、
そもそも手順へのこだわりや
やり方へのこだわりが随所に含まれるため、
休まず手順をこなしたとしても、
めちゃくちゃ遅いのです。

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そこで、この4つのルーティンが7分以内に完成したら、
仕上げ磨きの付属としてついてきた「耳掃除」がしてもらえることにしました。

7分のタイマーがなっても完成していなかったら、耳掃除はありません。

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この手のことを、口で説明しても、イマイチぴんとこない認知のSさん。

実際に、2回ほど失敗してもらいました。

そしてその後、ものすごく手助けして、成功してもらいました。

その後、1回も失敗すれば、このルールは理解しました。

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そして、未だにこだわりにひきずられて「あーあ」となる日もあるのですが、

なんとか間に合いそうなときは、

パジャマを着ている時間がなくて、
パジャマを抱えたまま、ソファにダイブ!したり
するようになったんです。

タイマーのカウントダウンを見ながら、
ものすごく素早い動作をしたり、
ちょっとズルをしてでも間に合わせようとしたり、
そんなことをするようになりました。

笑顔で
「耳こちょこちょ、やな♪」
と嬉しそうです。

これはすごいことなんです!

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自然にこのような概念がわかる子には、
わざわざ必要ない設定かと思いますが、

Sさんのように、工夫次第で体感し、理解する概念もあります。

私とSさんのこれまでの生活では、
幾度となくこんな設定が登場しました。

設定が上手でも、本人の認知のレベルと合わなかったりして、
2年後再チャレンジ、というようなこともありました。

参考になれば幸いです。

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タカマミー